砂子田 円佳さん(酪農家)vol.2「カナダで出会ったボスの存在」


▼目次

・カナダで出会ったボスの存在

・私を奮い立たせてくれた言葉が、今の私をつくっている

・十勝の酪農女性を盛り上げた火付け役


カナダで出会ったボスの存在

マドリン:ボスの牧場は日本の新規就農みたいな感じで始めて、私が行った時で10数年が経っていたんですが、ちょうどノリに乗ってるときで、牧場自体が有名になり始めてたんです。
それに、ボスはカナダのホルスタイン協会の女性初の会長をやるような人で…

フミコ:かっこいい!
そもそも新規就農で始めた人が大きな会の会長になるって考えられない!!!

マドリン:そうなんですよね。
しかも、男性たちの中で同じように意見をしている姿もすごくかっこよくて。
「この人のいうことを聞いていれば、私もこの人みたいになれるかな」と思いながら実習してました。

フミコ:そうだね。
目の前に憧れる人ができると、ついていこうって思えるよね。
そんなかっこいいボスのところでは、どんなことをしてきたの?

マドリン:最初のうちは、どこから来たかもわからないような日本人ですから、牛に触らせてもらえなくて、掃除ばかりしてました。
それから2年半ぐらいかかって、やっと牛の尻尾洗いとか少しずつやらせてもらえるようになって。

フミコ:最初はそうだったんだ。

マドリン:でも、カナダってフランス語圏だからフランス人がよく研修に来てて。
牧場の人たちは言葉が通じるから、私より後にきたフランス人に頼るんですよね。
それがすごく悔しかったし、自分の無力さみたいなのを感じました。

フミコ:そりゃ、そうだよね。

マドリン:それでも、悔しいことばかりじゃないんです。
普通は研修に行っても1年ぐらいで帰る人が多いんですが、私はもっと勉強したいとボスにお願いしてたこともあって、ワークビザの手続きをしてくれたり、私にカナダ人のような生活をさせてくれたんですよね。

フミコ:そうなんだ。
カナダでは、モデルになる先輩に出会えたという反面、自分の足りない部分が見えて、悔しい想いを持ちながら帰ってきたって感じなんだね。

マドリン:そうですね。
ボスのところで研修させてもらって、本当にいろんなことを学ばせてもらいましたね。

私を奮い立たせてくれた言葉が、今の私を作っている

マドリン:実は去年、カナダに行く機会があって、13年ぶりにボスと再会したんですよね。

フミコ:そうなんだ!
マドリンが日本で牧場を経営していることを伝えたの?

マドリン:伝えたら、すごく驚いてましたね(笑)

フミコ:そうなんだ。
当時、ボスがマドリンに対して、どんなことを思っていたかとか聞けた?

マドリン:そういう話はしてないですけど、私がどうしたいとか、こういうことを学びたいというのは、わかっててくれてました。
ただ、その時の私は、日本に帰ったら牧場をやりたいとはまだ思ってなくて、実家に帰ってからどうしたいしか考えてなかったんです。

フミコ:まだ若かったし、そこまで将来のことは考えられないよね。

マドリン:そうですね。
だけど、私がだらしなくしていると、ボスがその様子に気づいて

「あなたがGoodな人間で帰るんだったらもう帰っていい。何も言わない。
でも、あなたがVery Goodで帰りたいなら、これからも注意するけど大丈夫?」

と私のことを掻き立ててくれたんです。

フミコ:うんうん。

マドリン:けど、それって、それだけ私のことを見ててくれてるってことなんですよね。国が違っても、同じような人間で、同じような感覚だということや、100%言葉が通じなくても態度とかでわかっちゃうってすごく感じました。
二十歳で何もわからないでカナダに行っちゃったから、馬鹿なこともすごくしたけど、それも娘のように受け入れてくれて、可愛がってくれて、なおかつ厳しいことも言ってくれて、本当のお母さんだなって思いました。

十勝の酪農女性を盛り上げた火付け役

フミコ:すごい先輩に会えたよね。
目指したい姿があるから、頑張れるよね。

マドリン:そうですね。

フミコ:気になってたんだけど、ボスとのことや日本に帰ってきてからの経験が、今やってる酪農女性サミットにも繋がってるのかな?始まりはどんな感じだったの?

マドリン:最初は、私みたいにしゅん…ってなった時に声をかけてくれる人がいれば、辛くて辞めたいと思っても「もうちょっと頑張ってみよう」と思うのかなと思って。
“仲間をつくる”みたいな感じでSAKURA会というのを作ったんですよね。

フミコ:そうだったんだ。
そのSAKURA会では、どんなことをしてるの?

マドリン:酪農や農業に関わっている女子が集まって宴会したり、勉強会をしたりしてます。それが会を続けていくうちに、学校の同級生が集まる会みたいな感じになりましたね。

フミコ:そうなんだ。

マドリン:それに、いろんなカラーの人たちと出会うことが新鮮なんですよね。
たとえば、参加者の中には、なかなか自分から話すことができない人見知りの人もいるんですよね。そういう人でも「参加してよかった。楽しかった」と思ってほしくて、いろんな話をするんです。 そのうちに、イキイキしてきて、そういう姿を見るのも楽しいんですよね。

フミコ:それってさ、牛を育てるように、人を育ててるってことだよね。
酪農家の仕事って、牛が最大限の能力を発揮できるように体調の変化やいろんな事に気がついて、サポートしてあげることでしょ?
それと同じ事を周りの人にしてるわけだから、すごいことだよ!

マドリン:ありがとうございます(笑)
言われて、そうなんだって感じます。

フミコ:人や動物がイキイキしてる姿を見るのが好きなんだよね、きっと。

マドリン:そうですね。
それに、こうして8年も続けてると、周りの男性たちから受け入れてもらえるようになって。
続けることって難しいことだけど、そのおかげで、今どこにいても居心地が良い場所、居場所があるなって感じてます。

フミコ:続けるって大変だよね。

マドリン:そうですね。続けていると、もっと高みを目指して進んで行ったらいいのかな、とも考えたこともあります。けど、真面目に上を目指して行ったら、どんどん人が減るのかなと思って。

フミコ:うんうん。

マドリン:そんな事を考えていた時に、SAKURA会に参加してる子から「SAKURA会は交流会でいいんです!誰でも入れる裾の広いスタンスでいいんじゃないですか」と言われて。
その一言で気づいて、この会を充実させるために自分は何ができるかな、と考え始めたんです。

フミコ:そういう気持ちがサミットを開催することへ繋がったんだね。

マドリン:そうですね。
けど、それだけで満足してたらもったいなくて、もっと何かやりたいなと思ってて。

それで、今、やりたいことがあって…

(次回) 「 酪農をしやすくするには、私だけが頑張ってもダメ 」


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第3弾は4月15日(水)に公開予定です。お楽しみに!

【インタビュア】
㈱いただきますカンパニー代表取締役
井田 芙美子(フミコ)


1980年札幌生まれ。羊飼いの修業と観光案内所勤務を経て日本初の畑ガイドに/起業後半年で離婚、事業と母業を両立させる為に株式会社化してシニアや主婦をガイド養成し年間2000名に十勝の農場を案内/農業と観光の連携、女性とシニアの活躍等で講演、受賞多数/2019春から帯広·札幌2拠点活動

㈱いただきますカンパニー

【ゲスト】
酪農家「株式会社マドリン」代表
砂子田 円佳さん(まどか)


広尾町出身。実家は酪農を営み、高校の頃から酪農家を目指し、「帯広畜産大学」の後継者向け学科に進学。20歳の頃、カナダ・ケベック州の牧場に住み込みで研修をしたことで、そこで理想の酪農の姿を見出し、帰国後実家を手伝った後2007年に独立。「株式会社マドリン」を設立し30頭の牛を飼い酪農経営に乗り出す。すべての作業を一人で担っていたが、2015年他の牧場で働いていた男性と出会い結婚。現在は二人三脚で牛と向き合う日々を送っている。